花巻の幽霊列車 [花巻市]
昔、岩手県花巻市の郊外に、花巻鉄道の古い線路が静かに眠っていた。
この鉄道は1972年に廃線となっている。
ある日、都会から訪れた若いカメラマンのタケシが、その線路の存在を知った。
彼は廃線の風景を撮るのが趣味で、花巻鉄道の歴史にも興味を持っていた。
地元の人たちが「夜には近づくな」と警告するのを聞き流し、タケシは夕暮れ時にカメラを持って線路へ向かった。
線路沿いを歩きながら写真を撮っていると、タケシの耳にかすかな「カタン、コトン…」という列車の音が響いてきた。
「おかしいな、もう列車なんて走ってないはずなのに…」
そう思いながらも音の方へ進むと、濃い霧の中から古びた細い電車がゆっくりと姿を現した。
それはまさに、かつて花巻鉄道を走っていた列車だった。
列車はタケシの目の前で停車し、ギイギイと音を立ててドアが開いた。
中を覗くと、そこには古めかしい服を着た乗客たちが無表情で座っていた。
彼らの視線が一斉にタケシへと向けられると、タケシの体は金縛りにあったように動かなくなった。
気づけば彼の足は勝手に動き、列車の中へと引き寄せられていた。
ドアがゆっくり閉まると、列車は再び動き出し、霧の中へと消えていった。
翌朝、村の人々が線路を訪れると、タケシの姿はどこにもなかった。
ただ、線路脇に彼のカメラだけが落ちていた。
そのカメラの中には、不気味な一枚の写真が残されていた。
それは、満員の列車の中で無表情に窓の外を見つめるタケシの姿だった。
村の老人がその写真を見て、静かに語った。
「あの列車は、昔ここを走っていた花巻鉄道だ。
たまに過去現在とが時空がねじれてしまうのだという。
でも、あの列車に乗ったら二度と戻れないのさ。」
それ以来、夜になると線路のあたりから再び「カタン、コトン…」という音が聞こえることがあったという。
そしてその音が聞こえた夜、誰かが姿を消すという噂が広まっていった。
今でも車両の一部が公園に保存されています。
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